GAME LIFE HACK

ゲーム生活、少し変えてみませんか?

『シャドウ・オブ・ウォー』が実現した「自らの手で物語を作る」というナラティブデザインについて語りたかった

f:id:shiftwinter:20171018173158j:plain

 
ゲーム作品において本当の意味で「プレイヤーの数だけ存在するシナリオ」というのは実現可能なのだろうか?
 
この手のキャッチコピーは自由度の高さアピールとして存在する謳い文句だが、殆どの場合はその選択肢の掛け合わせによる単純計算での掛け算であるというケースが往々に存在しており、結局のところその表現の幅というのは極めてコンパクトに収まっているのが現状である。
 
また「ナラティブ」という言葉が市民権を得ている昨今ではあるが、大抵はNPCやギミックが織りなすハプニングやアクシデントを指したものであることが殆どを占めることが多いだろう。プレイヤーの目の前で展開される物語というのはつまるところランダム発生のイベント、AIパターンの掛け合わせでしかないというケースは往々にして存在する。勿論これはこれで十分凄いし、基本的には短期的なそれらだけで遊んでいる際は満足出来てしまうことが殆どだろう。
 
しかし、物語としてのナラティブ、つまりセリフや名前のあるキャラクターを絡めた物語生成という物まで考えていくとシヴィライゼーションをはじめとしたシミュレーションゲーム以外で実現している以外には、存在しているとは中々言い難いのが現状である。現状、物語としてのナラティブは盤面を見下ろした際のコマの動きの組み合わせとしてしか楽しめないというのが大抵の場合なのだ。
 
ゲーム作品において「自由度の高いオープンワールド」とはなんだろうか?
 
例えば『マインクラフト』なら無制限に広がるフィールド上のありとあらゆるオブジェクトに対して恒久的な変化を加えることが可能で、その世界で狩猟や農耕、探索そして建設などを駆使して生活するという方向で究極の自由度を実現している。また『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』ではオブジェクトに対して属性を付することによってより自由度の高いエレメントの組み合わせによる遊びの幅の拡大に加えて最終ボスへの到達すら開始直後にアプローチできるほどの「アプローチやミッション構造によるプレイ時間の自由度の幅」を確保することでプレイヤー自らが作り出すシナリオという、オープンワールドである理由が納得できる自由度を確立することに成功している。これらが所謂自由度の高いオープンワールド作品の決定版として成立している事に疑いの余地は恐らくないだろう。
 
だが、こういったアプローチ以外で、オープンワールド作品がオープンワールド作品である意味があるほどの、それが広大な収穫場やアスレチックであるだけではない、オープンワールドである理由を説明できるシステムやシナリオ構造を用意したオープンワールド作品を作ることは実際のところ可能なのだろうか?
 
もちろん存在する、それが今回紹介する『MIDDLE-EARTH: SHADOW OF MORDOR』とその続編『MIDDLE-EARTH: SHADOW OF WAR』なのだ。本作は指輪物語フランチャイズのゲームという立ち位置だが正直なところ原作を知らなくてもゲーム内だけで目的や目標がハッキリしており、単体として面白い仕上がりとなっている作品だ。
 
今回は、『シャドウ・オブ・ウォー』と前作『シャドウ・オブ・モルドール』が「オープンワールドアクションRPG」というフォーマットに於いて「ストーリーテリングとしてのナラティブ」という課題はどのように実現できているのかについて語っていきたいと思う。
 
 

 

基本システムは「アサクリ亜種」

快適な戦闘周りと移動周り
本作の基本的なシステムは「アサシンクリード」に加えて「バットマンアーカム~」の良いとこ取りと言えば即効で伝わる程に分かりやすく出来上がっている。例えば縦横無尽に移動可能なパルクール要素、お手軽にそれでいて気を抜けない滑らかな戦闘システム、隠れれば隠れるだけ有利になるステルス要素、おまけに目標の敵を探したりインタラクト可能なオブジェクトを見つけることの可能な「鷹の目」まで存在している等々、本作はどこまでもアサクリなのだ。
 

f:id:shiftwinter:20171018174156j:plain

 
戦闘時の基本操作に関してもXボタンで通常攻撃、Yボタンで相手からの攻撃をブロックしはじき返し、Aボタンでより強力な攻撃を回避するローリングというのが基本的となっており(普通にボタンを押すだけでも十分快適だが、親指の腹でXボタンを保持し親指の先でYボタンを保持しておく「Bダッシュ」的な構え方をするとより素早く対応しやすいかも)、移動時はスティックで倒しつつAボタンを適宜押しながら段差や崖を飛び越え飛び上がり走破していく操作方式となっている事からも分かる通りアサシンクリードのシステムそのままであることは疑いの余地が無いだろう。
 

f:id:shiftwinter:20171018181008j:plain

 
(因みにアサクリ以外からも参考にしたと思われる要素があり、例えば「空中で弓を構えると一定時間スローになる」スキルが用意されている。・・・・なんというか良いと思ったものを取り入れるのに衒いがないというか貪欲というか巧いことシステムとして綺麗に纏ってるから困る。もっとやれ)
 
これら一連の戦闘システムは非常に快適に作られており、その戦闘モーションもまた非常に格好良い仕上がりとなっている。どこまでも急所を狙い切り伏せていく主人公の剣技に加え、左下上部の橙色のゲージが溜まると発動することが可能な処刑モーションも多岐にわたり、相手となるオークどもの頭部が面白いように飛んでいったり破裂したりする。勿論本作はZ指定作品だがそのレーティングに相応しい暴力的な攻撃表現が備わっているのだ。
 
また『シャドウ・オブ・ウォー』では移動周りが超絶強化されているのも特徴的だ。建物の縁から跳躍し途中で空中ジャンプスキルで微妙に遠い足場にも手が届き、また壁の突起を掴んだらそのまま頂上まで瞬時に飛び上がることが出来る飛び上がりスキルも存在するなど、フィールドをアスレチックとして存分にパルクール出来る快適な操作デザインが実現されている。
 

f:id:shiftwinter:20171018180013j:plain

 
このようにアサクリ亜種の中でもアサクリ要素が大変快適に作られている本作は半身半霊である主人公という設定を如何無く発揮しており、幽鬼の力を駆使した強力な戦闘システムで敵を殲滅し超絶機動でフィールド上を高速で駆け巡ることが可能となっている。そしてこの大抵の物理法則に反した機動や戦闘力そしてシステム的に快適にしたい要素などは幽鬼の力を借りたうえで可能になっているという表現にしており、分かりやすさと説得力を両立させた非常に巧い作りにもなっているのだ。
 
 
オープンフィールドでのステルスに対する一つの解
ステルスゲームとはNPCの行動を分析し、その場その場で状況を解決していくいわば「パズルゲーム」てきな側面が強い。そのこともあり状況が不定形になりがちなオープンワールドにおいてステルス要素というのは設定構築の部分からして水と油の関係になりがちだった。
 

f:id:shiftwinter:20171018174347j:plain

 
例えば『アサシンクリード』ではパルクールアクションの革新性はもはや言うまでもないが、「ステルスゲームとしてのアサクリ」として見ると割と簡易な出来上がりのままであるというのが現状である。大抵の場合は「鷹の目」を使ってゆっくり追いかけるといったケースが殆どだろう。あくまでアサクリにおけるステルス要素とは遊びやミッションのバリエーションのひとつとして機能している程度にとどまっているのだ。もちろん隠れ場所の確保という意味では有効ではあるが倒し切っちゃうか範囲外に逃げ切っちゃうとどうにかなることも多い。
 
大抵の場合オープンワールドでステルス的行動を選択しても、コトが起こるその場までどれだけ潜り込むことが出来るのか、という「波風を立たせないための方法」のひとつという域を出ていないのが殆どの場合だった。丁寧にひとりひとり敵を倒しどこか目立たないところに追いやったり、倒さずにいなし切っても対処すべき敵を減らすか先延ばしにするだけだったといったケースに思い当たる方も少なくないだろう。それが普通だろうしそれで今まで成立していたわけだが、基本的に消極的にひとりずつ削っていく行動が殆どだ。
 
だが、この部分を『シャドウ・オブ~』はステルス要素のシステムデザインは「オープンワールドにおいて、より深みのあるステルスゲームは成立するのか」という難問に対して「攻めのステルス」というアプローチで回答のひとつを提示することに成功している。
 
まず、基本のパルクール要素はそのままステルスゲームとしても十分機能しており、目標の敵に対して物陰や高所に隠れながら瞬時に接近しその息の根を止めることが可能なように仕上がっている。加えて相手のオークどもに視界は設定されており目の前近く派手な動きをすればするほど気付かれやすい部分をはじめ、草むらに身を潜めると見つかり難くなったり、RT押下でしゃがみ状態へ移行しそのまま敵の背後まで接近し首を掻き切ることが可能だったり、もし見つかっても最後の発見箇所に残像が残り敵がそこを中心に捜索するといった『スプリンターセル:コンヴィクション』でおなじみの要素も採用されているなど、基本的なステルスゲームとしてのゲーム性も申し分ない仕上がりとなっている。
 
そして、こうした基本的なステルス部分の出来に加えて、本作特有の「洗脳システム」が広いフィールドにおいてのステルス要素をうまく機能させているのだ。
 

f:id:shiftwinter:20171018175533j:plain

 
先に挙げた通り、ステルスゲームにおいて一番の悩みどころに「遭遇した敵、倒した敵をどう処理するのか」という部分が存在する。隠密行動で潜入する必要のあるステルスゲームでは敵の死体は残っているだけで怪しまれ警戒度が上がるきっかけになるケースが殆どだろう、かといって無視するわけにもいかない。
 
だが『シャドウ・オブ~』の大きな特徴として本作の主人公はオークを洗脳させることが出来るという部分がある。
 
洗脳されたオークは気付かれることなくこちらの味方になり状況を大きく変化させることが無く奥へ奥へと進むことが可能なのだ。この洗脳操作は戦闘中に行うのは難しい作りとなっており、ステルス状態で背後から狙うとより確実に即席の仲間を増やすことが可能となる仕様になっている。この部分もステルスしながら潜入する為の理由とリスクとリターンがしっかりと設定されており
 
この洗脳システムの重要なところとして、「倒した敵をどうするか」というステルスゲームにおいて毎回悩まされる課題を解決したひとつの例となっているの事も説明しておきたい。
 

f:id:shiftwinter:20171018181101j:plain

 
ステルスゲームにおいて敵NPCというのは生きている状態でも倒れている状態でも非常に厄介な存在である。例え他の相手に気付かれずに倒してもその場で放置したらもちろん怪しまれるし、気絶させたら目覚めるかもしれないリスクが存在し、死なせたら死なせたで血痕が残るなどして怪しまれたり、特定の誰かが居ないことが分かれば警戒度が上がるよう設定されている作品も存在する。こういう課題に対し、ある作品ではフルトンによってその場から退場させ、またある作品では全滅させちゃえば目撃者居ないよねと割り切り、とある作品では目覚める前に通り抜けさせ殺さないでおくとランクが上がるように設定する、など様々なアプローチが為されている。
 
『シャドウ・オブ~』にて採用されている「洗脳システム」はステルス状態で行っていけばまず他の敵には気付かれることがなく、こちらを無視してくれる相手を増やすための手段として用意されているのだ。そしてひとたび見つかった際にはその洗脳できた敵がそっくりそのまま援軍として動いてくれるため、どれだけ気付かれなかったかの明確なインセンティブとして機能してくれているのだ。おまけに元は敵である、雑魚程度なら使い捨てにしても勿体無いとはまず思わないだろう。(この洗脳システムに関してはこれが全てではなく、後述する「ネメシス・システム」においては更なる広がりを見せるが、それについては後半で詳しく説明するつもりだ。)
 
このように本作では強硬突撃によるお手軽さに加えて、ステルスする際の利点やリスクもシッカリ用意されており、ステルスゲームとして遊ぶ際の完成度も高く仕上がっているのだ。
 
無論本作は乱暴に突撃して殲滅していっても十分ゲームとして成立している為、ステルスゲームとしての要素はあくまで攻略の方向性のひとつとして収まっているのでプレイスタイルの制限という懸念は問題無いだろう。だが素の戦闘力の高さだけで解決させるのではなく敵を弱らせて洗脳をさせるという搦め手での切り崩しも非常に楽しく、自然と闇討ちからの四面楚歌状態の構築を狙いたくなってしまうようにも作られているわけで、遊ぶ際はその戦略の選り取り見取りさに顔が綻ぶはずだ。
 
つまり『シャドウ・オブ・ウォー』という作品は「オープンワールドステルスゲームは機能するのだろうか?」という疑問も鮮やかに解決しているのだ。
 
ステルスゲームにおける敵の賢さ
また、このステルス要素がしっかり違和感なく機能している理由としては他に「オークという明らかに馬鹿そうな本能で動いてそうな敵が相手」という部分がかなり大きいのではないかと筆者は考えている。
 
例えば通常の人間相手といった設定だと特にその齟齬が表面に出てしまう事が多い。人間相手のステルスゲームで「頭いい筈なのに、良い装備を付けてるはずなのに今のでオオゴトにならないのはどうしてだ」といった違和感を覚えた方も居るだろう。もしくは、もはやそういった違和感も「まぁゲームだし」で流してしまう人も居るだろう。ゲームのAI自体は日進月歩なのだが、そのAIを観察することがメインとなるステルスゲームではどうしても粗が見えてしまうのは現状でも避けられない課題である。
 

f:id:shiftwinter:20171018174323j:plain

 
ならば、知識があるのなら無くしてしまおう、装備がネックなら取り外してしまおう、オオゴトになる範囲を制限したいなら通信手段を制限させればよい、などと考えてみるとオープンワールドでステルスを実現する為に設定方面から様々な制限を加える下地を用意出来る中つ国の舞台設定は非常にマッチしているのだ。
 
本作で隠れる相手はオークである。オークは基本的に野蛮で頭が悪いというぼんやりとした共通認識が出来上がっているし、実際見た目的にもなんか頭わるそうに見える。このおかげで例えば視界付近を横切っての「今ので見つからないの!?」と思ってしまう場面でも「まぁオークだし」という前提としての了解が出来上がりやすいのはステルスゲームとして非常に大きいアドバンテージであるわけだ。
 
他に頭悪そうな相手にステルスをさせることで違和感を抑え込んだ例としては「バットマンアーカム」シリーズがそれに該当する。『アーカム~』も刑務所に長くぶち込まれるような凶悪な犯罪者が相手なので、AIシステム的な都合でおつむが弱くても「捕まる程度の相手だし」という前提で隠れることが出来、心置きなく死角から死なない範囲ギリギリで再起不能にすることが出来るわけだ。
 
余談だが、依然『魔人と失われた王国』などを担当された開発者の方と少しの時間ではあるが会話する機会があり、幾つかお話を伺ったことがあるのだがその際「AIというのは基本的に頭が良くないので、巨人のような融通が利かない不器用な性格造形をさせることでその違和感を無くすように心がけた」といった類の話を聞かせて頂いた。AI特有の思考ルーチンを違和感なく設計するためにまずキャラクターの設定をそれに寄せる、機能主義的なキャラクターデザインとして非常に有効な方法であることが伺えるといま改めて実感している。
 
 
このように本作はアサシンクリードの亜種として、悪く言えば真似事な作品なのだが研究しまくったのであろう、その快適さや練り上げ具合は「本物になろうという意志があるだけ、偽物の方が本物より本物だ」という言葉が似合うほどアサシンクリードと同等かそれ以上に快適な操作デザインとなっている。
 
さて、ここまで書くと「なんだ結局は快適なだけのただのアサクリもどきじゃん」と思われるかもしれないが、ここからが本題である。先に挙げた快適な要素たちはこれから挙げるギミックを快適に動かすための、あくまで下地として存在しているに過ぎないと言っても過言ではない程だ。
 

ネメシスシステム

『シャドウ・オブ・モルドール』そして『シャドウ・オブ・ウォー』においていちばん特徴的な要素がこの「ネメシス・システム」と呼ばれる、自動生成されるオーク達による権力争いの描き方とそこへのインタラクトシステムなのだ。
 
本要素が解禁されて初めて『~モルドール』や『~ウォー』の本番が始まると言っても過言ではない、それほどまでに重要な部分なのである。
 
このシステムはゲームプレイから暫く進めないと解禁されない要素なので、まずは素直にこの快適なアサクリもどきを楽しんでオークどもの倒し方を指先に取得しておこう。(正直ストーリーミッション周りは「誰を追いかけていけ」とか「特定の動作で敵を倒していけ」などの操作制限を強いる悪い方向でアサクリしてるミッションが目立つのでちゃっちゃと消化してしまおう。)
 
オークは貴方を憶えている
「ネメシス・システム」について説明する前に本作におけるオークどもの仕様についてもう少し掘り下げて説明したい。
 
本作における幹部やリーダークラスのオークは全てランダムに生成される。そして作成されたそれぞれのオークどもはそれぞれ固有の長所や弱点を兼ね備え性格も千差万別となっている。あるオークは処刑攻撃に対して耐性を持っていたり、あるオークは瀕死状態になると激昂し戦闘力が増す、そしてあるオークはグールに弱く、べつのオークは暗殺攻撃で一瞬で倒せるというケースも存在するなど、その特徴は千差万別となる。
 

f:id:shiftwinter:20171018175502j:plain

 
そして更に特徴的な点として「オークどもは自分の身に起きたことを記憶している」という部分がある。例えば「自分が誰かを倒した」「権力争いで同族の誰かを刺した」「主人公に瀕死のダメージを受けた」「主人公が他の誰を斃した」など特にゲームに関わる部分についてそれぞれのオークどもは記憶しており、そしてプレイヤーの介入次第で装備が強化されたり傷跡が増えたりといった部分もシッカリと引き継がれる。対峙する際のセリフすら変化するのだ。
 
つまり自動生成された個々のキャラ付けがのちの状況における伏線へと自動的に機能するように作られているわけである。
 
また、主人公は基本能力として半身(半霊?)である幽鬼の力を借りオークから生命力を吸収し体力を回復することが可能で(先に挙げた洗脳操作の流れで可能だ)、加えて特定の敵に対しては情報をも吸収することも出来るので目的のボスを倒すためにそいつの弱点がどういったものであるのかも調べることが可能なのだ。死に瀕し怯えてるオーク相手に無慈悲に体力を貪りながら尋問して情報も手に入れちゃおう。
 
ちなみに「もし記憶が引き継がれるとしても基本主人公とは殺し殺されの関係なんでしょ?」という部分に関しても「HPがゼロになったらリスポンする」といったゲーム的都合を、「生き死にの理から外された主人公」という設定構築として話に組み込んでいるので、再度同じ敵に対峙した際に切り結びながら「次こそは息の根止めてやる」的な短い会話が展開されるケースも頻繁に発生するのだ。
 
言わば「北辰に何度も立ち向かう復讐人」的な立ち位置で主人公が動く場合も多く存在するわけで、そういった方向でも「自分だけのシナリオが目の前で作られてる」という状態を体験でき、実際に遊ぶとよりその効果を実感できるだろう。加えてオークの方も一命をとりとめてたり土壇場で逃げの手を打つなど状況に応じて様々な行動を選択するのが興味深い。
 

f:id:shiftwinter:20171018180214j:plain

 
そして、こういったやり取りを彩るオークどものセリフのバリエーションも多岐にわたっておりまさに立て板に水のような啖呵でこちらに切りかかってくる。このボキャブラリーの多彩さはこちらの殺意をより滾らせるのに十分で、こちらの臥薪嘗胆の心持ちを維持するに足る働きをしてくれるわけだ。
 
このように本作におけるボスクラスのオークどもは常に自動生成され、こちらの行動を記憶し、それぞれが長所や弱点を備えており、主人公の現状の状態も相まって何度も剣を交える対象として機能しているというわけだ。
 
 
変わる「関係性」
「物語」とは登場人物同士の関係性の描写や変化であると換言することも出来る。そして、エンターテイメント作品においてしばしば「相関図」と呼ばれる表が採用されている事からも分かる通り、人物関係を見せることでそれがどういった話となるのかを飲み込ませやすい訳で、関係性を見せるのは手っ取り早く状況を把握させるのに極めて有効であることは疑いの余地はないだろう。つまり「物語」とは「人間関係の積み重ね」でもあるわけだ。
 
そしてこういった相関図をシステムとして昇華した例と言えば『ゼノブレイド』シリーズにて採用されている「キズナグラム」と呼ばれる動的に変化する相関図システムを挙げることが出来るだろう。本システムは、誰が誰に対してどう云った印象を受けているのかが適宜ポップアップし、現状どういった関係性になってるのかを分かりやすく見せることでそのシナリオ構造をより分かりやすく認識させることに成功している。
 
さて、『シャドウ・オブ・~』では「ネメシス・システム」の一環として「軍勢」と呼ばれるメニューが存在しており、この画面はある意味「キズナグラム」と方向性が近いシステムとなっている。比べるにはあまりにも穏やかじゃないが。この画面は現在フィールド上に存在するボスクラスのオークが全て表示されており、それぞれの関係性や弱点をはじめとしたステータス周りが情報収集に応じて明らかになっていく場所となっている。
 

f:id:shiftwinter:20171018174706j:plain

 
そしてこの「軍勢」を含んだ「ネメシス・システム」の機能が本格解禁されるとオーク同士の仲間意識や敵愾心なども審らかになり、その過程でミッション形式で発生するオーク間でのいざこざに対して臨機応変に対応することが可能となるわけだ。これによってオーク内の力関係や勢力をそれとなく誘導することも可能になるわけだ。
 
先に挙げた「洗脳システム」はここで活きる、このシステムはボスクラスのオークどもにも適用することが勿論可能で、当該フィールド内で信頼したり敵対しあってるオークのうち誰かを洗脳しこちら側に引き入れておきつつ泳がせるのだ。洗脳状態でも気付かれずにオークの軍勢に組み込ませ続けることが可能なのでうまいこと裏で糸を引き経験を積ませたり援護射撃で勝たせたりすることも可能で、特定のミッションが発生した際に昇進させたり裏切らせる行為を仕向けることも可能となる。その関係性をこちら側でいいように利用することが出来るわけだ。
 
つまり、本作におけるオークとは憎むべき敵であり、敵軍を瓦解させるために獅子身中の虫の役割を担わせる手足となって働く部下でもあるわけだ。
 

f:id:shiftwinter:20171018180256j:plain

 
強いボスクラスのオークを倒したかったら一段階下の敵愾心を持ったオークを洗脳しいざこざを行わせ互いに疲弊したところを美味しく刈り取るという戦い方もできるし。逆に、仲間意識を抱いてるオークが存在するなら引き入れたのち後ろから闇討ちを行う役を担わせてそのまま倒す、といった方法をとることもできる。またあるオークは獰猛な野生生物討伐にかまけておりその場を利用して横合いから一気に殴り掛かるといった真似が可能など、それぞれのオークの特性次第ではあるが発生する状況は多岐にわたり。プレイヤーは与えられた状況で駒をどう動かすべきか常に考えさせられるわけだ。
 
加えてこれらのオークども同士のやり取りを観察・支配する上で『シャドウ・オブ~』にて採用されているステルスゲーム要素も活きる。
 
というのも、前項で「ステルスゲームとは突き詰めればNPCを観察するゲームである」と表現したが、このNPC観察という仕組みは本作でのオークどもの権力争いやそれらに介入出来る「ネメシス・システム」との相性が非常に良く、それぞれの個性やフィールド等に対しての弱点を把握しつつ自身の戦闘力を武器にした激闘の末弱体化させたり内ゲバを眺めながら状況に応じてちょっかいを出したり突然接近しゼロデイアタックで直接介入等々、様々な手段でオークどもを切り伏せるか洗脳することでモルドールの地を自身の思いのままの状況に導く、といった遊び方が可能になっているわけなのだ。
 
快適な移動システム、戦闘システム、潜入システムの練り込みは、オークどもを追尾し観察し殲滅し弱体化し洗脳し軍勢を作り上げる為に用意されてると言っても過言ではないのだ。本作に用意されているありとあらゆる手段はオークどもをその精神まで蹂躙する為に作られており、プレイヤーはこれらのスキルをどこまでも駆使していくことになる。そしてそれらのインタラクトに耐えうる程にランダム生成されたオーク同士の人間(?)関係や記憶力、付加される属性などの要素の実装が見事綺麗に収まっていることが分かるだろう。
 
このように『シャドウ・オブ・ウォー』ではオーク同士の権力争いとその介入という切り口で様々な場面やシナリオ、対人関係や戦局が出来上がっていき、これによって「プレイヤーの数だけのシナリオ」が生まれるシステムデザインの構築に成功しているわけだ。
 

復讐というモチベーションの為に

本作における主人公とは「復讐者」であり結果的にシステム的には「陰からの支配者」でもある、おそらくただの映像作品や文字媒体の作品ではまず選ばれないであろう立ち位置だ。本作における主人公はまさに「ゲームならではの立ち位置」を実現していると言っても過言ではない。
 

f:id:shiftwinter:20171018175633j:plain

 
そして動機も分かりやすい、設定背景はそれこそ重厚な作品特有の「どういった霊魂や神々や伝承や種族が存在して~」といった方面の掘り下げだが本作ではそこらへんはあくまでフレーバーとして機能しており、その手の資料集めも経験値や資金獲得以上の機能は持っていない。そしてそういった収集要素もウェイポイント指定したらその位置がはっきりと示されるので「場所の探索」ではなく「移動経路の確保」としての側面が強いのも個人的にポイントが高い。別作品で過去には『サンセットオーバードライブ』の収集要素もこういった作りに収まってくれて大変喜ばしかった記憶がある。
 
プレイヤーはとにかく「オークに家族を殺されて自分も死んでしまった。だから何度も生き返ってオークたちに死を、或いは死よりも酷い目に逢わせる」というゴブリンスレイヤーならぬオークスレイヤーとして機能しているのだ。ゲームの主人公とは往々にして機能主体であることが求められるが本作の主人公はその要求に見事応えてくれる出来となっている。壮大なゲーム作品にありがちな「この役目、俺がやる必要ある?」という疑問を「復讐」のひと単語で成立させているのだ。
 
作中では普通に他のキャラクターと会話し何かしらをやり取りするという風景がカットシーンを中心に描写されているが、結局それ等もオークの親玉とその部下を抹殺するという目的のために必要であるという風に作られているわけなのである。(実際の制作者の意図や目論んだ心象はその限りではないが少なくとも遊ぶ際においては些末な要素たちである)
 

f:id:shiftwinter:20171018181151j:plain

 
復讐のためにオークの首を撥ね、復讐のためにオークを洗脳し、復讐のためにオークの軍勢切り崩す。明確な目的のために様々な手段が用意されている本作『シャドウ・オブ・ウォー』は是非ともお勧めしたい一作である。勿論前作『シャドウ・オブ・モルドール』から遊んでも楽しめるだろう。
 
 

参考文献

ナラティブ性についての解説記事
正直これ見ちゃえば解決って話だった
 
書いてる途中で「まさに」な記事が出てきて本記事の下書き消そうか悩んだレベル
 
今作、前作のレビュー記事
システムの説明が綺麗に纏ってる記事
 
本職の人はもっとシンプルに魅力伝えることが出来るという例
 
多分どんなゲームか一番分かりやすいとおもいます
 

参考書籍

gumroad.com

電子書籍(pdf)形式、ナラティブについての詳しい解説アリ

余談:フレーバーとしての「ステルス」、フレーバーとしての「オープンワールド

ステルスゲームとして『アサシンクリード』を見ると、大味な作品であることは否めないという話を先ほど取り上げたが、その部分をもう少し掘り下げておきたかった。
 
アサクリにおける潜入ミッションは、話の流れ的として必要だからという理由だけで設定された状況が始まり「鷹の目」を使い高所を歩き人の目を掻い潜り目的地について言質を取ったら大抵の場合追いかけた対象はその場で抹殺かミッション完了の報とともに消滅辺りで終わってしまう事が殆どだろう。なので(筆者の個人的な感想だが)アサシンクリードの、パルクールアクションの革新性は別として、ステルス部分つまり潜入要素はあくまで物語進行的に強制的にプレイヤーを歩かせるためのフレーバー的な、あくまでオマケ要素程度に収まっていると今でも感じている。
 
つまりアサクリにおいてステルスとは「味付けのひとつ」として盛り込まれているというわけだ。
 
さて、オープンワールドステルスゲームと言えば他には『MGSV』を思い出すかもしれない。が、本作は厳密には広大なフィールドの要所要所にサンドボックスととしての敵兵が駐留するフィールドが配置されたいわば「エリア間の自由移動が可能なMGSPW」といった仕上がりなので。確かにエリア単位でのステルスゲーム性は高いがそれはサンドボックス単位でのレベルデザインによる賜物の側面が強い。
 
つまりMGSVにおいてオープンワールドとは「味付けのひとつ」として盛り込まれているというわけだ。
 
恐らく『MGSV』はミッションクリア形式でフィールド移動制限を加えてミッション単位でブツ切りにしても(多少の自由度は損なわれるが)十分成立する類の作品だと考えられる。プレイヤーの中にも大型ミッションをクリアするたびに拠点としてのヘリ機内に戻りiDroidを開き次のミッションをどうするのか考え時間を指定し効果地点へ向かうというプレイスタイルだった方も多いだろう。サイドクエスト消化等での拠点巡回でいちおうはオープンフィールドとして機能していた部分ももちろん存在するが。
 
なので、アサクリが「フレーバーとしてのステルス」ならMGSVは「フレーバーとしてのオープンワールド」の色合いが強いと見る事が出来る。