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【分析】 「機能の集約と変化」から見る『ギアーズオブウォー』の操作デザインについて

ビデオゲーム、特に3Dポリゴンのゲームの歴史は常にカメラとの闘いの歴史でもあった。プレイヤーを主観ないし俯瞰で捉えるカメラとプレイヤー自身の動きの制御に数十年ものあいだ開発者は悩まされてきた。加えてカメラ操作の自由度向上による操作の煩雑さ以外にも武器の交換やリロード、殴り、射撃、ダッシュ、しゃがみその他諸々の操作なども増えてきている。
 

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「出来る事が増えればやるべきことも増える」これはゲームシステムのデザインにおいても同様で、動作に対しての操作の複雑化というのは避けるのはなかなか難しい問題なわけだ。
 
今回の記事はそういった操作デザインの複雑化に対して「機能集約」という形で対応を行ったケースを分析していくものとなっている。そのケースとは何か?「ギアーズオブウォー」の操作体系についてである。本作品がどのように機能集約を行って操作の多様性を実現したのかをこれから切り込んでいきたいと思う。
 

 

ギアーズの操作方法を振り返ってみる

最初に操作方法の確認として最近国内でも正式にほぼ無事に無規制版が発売された『Gears of War 4 (XBOXONE/Win10)』のキーアサインを見返してみよう。勿論ゲームパッド準拠のそれだ。
 
まず、左スティックで「移動」、右スティックで「狙い」、左トリガーで「覗き込み」、右トリガーで「射撃」、この部分は覗き込み操作の存在するシューターなら標準仕様だ。そして左バンパーで仲間の位置や目標などの「状況確認」、右バンパーで「リロード」、Xボタンで落ちてる武器の交換やドアの開閉などの「インタラクト」、Bでボタンで「近接攻撃」、Yボタンは処刑や注目などのボタン指示時のみ出てくる「特殊操作」。そしてAボタンがローディーラン(=スプリント、ダッシュ)やカバー動作や乗り越えやローリングなどの機動周りを司る各種行動。主に以上の操作を駆使してギアーズでは血飛沫と爆炎飛び散る中様々な局面を切り抜けていくような作品となっている。
 
 

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ここで改めてキーアサイン図を確認してみよう。こうしてみるとボタン構成は大まかに分けて「LB/RB/LT/RT」の単一操作と、「ABXYボタン」の複数操作内包と言う形で2種類の傾向が存在することが分かるだろう。
 
 

足回りを集約したAボタン

ギアーズシリーズにおいて特徴的な要素と言えば、物陰に隠れ敵の攻撃を避けつつ攻撃の機を伺う「カバーシステム」が挙げられるだろう。この操作に移行するのは簡単で「物陰付近でAボタン」これだけで即近くの物陰に身を隠すことが可能となる。
 

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だがAボタンには他の動作も内包されているのは先にも書いた通りで、近くに物陰が無い状態でAボタン長押しを行うと所謂スプリント(ダッシュ)とも呼ばれる「ローディーラン」でどこまでも走り続けることが可能だし、同じ状況で左スティックを倒しながらAボタン短押しを行うとその場しのぎで敵弾を回避したり懐に接近など行う事が可能な「ローリング」、特定の物陰に隠れてる状態で物陰方向に左スティック倒しとAボタンで物陰をよじ登り越え前進できる「よじ登り」、物陰に入ってる状態で近くに別の物陰が存在する状態の際は当該物陰方向に左スティックとAボタンで別の物陰に素早く移る「隠れ位置の変更」など、様々な動作を行う事が可能になっている。
 
(ちなみにBボタンにおける各種動作の派生はAボタンのキャンセル動作めいた補助として「Gears of War 4」(一部はギアーズ3)から採用された新機能が多く、更に高機動な操作へ派生させるための操作として実装されたものだ)
 
 

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このようにAボタンでは「ローディーラン」と「カバーアクション」「ローリング」等々と足回り操作を中心にダイナミックに操作が変化するのだ。これらの大幅な操作の変化はスティックの倒され状態や今居る自キャラの位置に対応する形になっている事も分かるだろう。つまりAボタンには異なった操作が「集約」されており、各種状況と少しの操作によってその多岐にわたる操作に派生するように作られているというわけだ。
 
そしてこの状況対応によるボタンの機能変化と対をなすシステムがギアーズには実装されている。
 
それが次の項目で触れる「ボタン押下状態による左スティックの機能変化」の仕様だ。
 

押下状態で変化する左スティックの機能

さて、ここからが本題だ。
 
Aボタンに各種動作が集約されているという事は先に述べたとおりだが、「ボタン押下状態による左スティックの機能変化」とはどういった物を指すのだろうか?
 
ザックリ簡潔に言えば「あらかじめA or Bボタンが押下されている状態だと左スティックは右スティックへ変化する」のだ。
 
具体的にはどういう事だろうか?
 
例えば通常のゲームパッドを用いた3Dフィールドをメインとしたゲーム作品においてABXYボタンなどの所謂「サムボタン」を長押し(ないし一定間隔以上の短押し)操作を行っている際は右手側親指がボタン操作に割り当てられることもあり同じく右手側親指が必要な右スティックによる視点移動などの操作を同時に行うのが難しくなるのはご存知の通りだろう。
 

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(雑に図にするとこんな感じ )
 
その部分をギアーズでは「Aボタン」や「Bボタン」を長押ししている際、左スティックの左右が「左右の平行移動」から「左右の方向転換」に変化するという操作方法を採用することで「AダッシュやB近接攻撃をしながらの方向転換」を行えるように設計されているというわけだ。
 
これによってギアーズでは右ボタン押下で発動するダッシュ操作においてもただの直進ではなく左右への移動先の調整が可能になり、近接攻撃においても素早く敵方向を向くことが可能な操作性を確立しているわけだ。ボタン押下状態という状態切り替えはプレイヤーが行っている事もあり、スティックの機能変化に対してもプレイヤーはその操作性を無意識に使い分けることが出来るのだ。
 
「ボタン操作を行いながらの視点移動」は特に3Dフィールド上で行われるシューター作品に於いて往々にして悩まされる操作部分だった。その部分をギアーズにおいて採用された操作方法は解決方法のひとつとして確立出来ている。ボタン押下状態で変化する左スティックの振る舞い。これがギアーズに実装された画期的な仕様の一つなわけだ。
 

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上記のボタンとスティックによる操作の仕様をまとめると
 
『先に左スティックが入力されている状態→状況や方向に応じてAボタンはローディランやローリング、柵乗り越え、カバーポジション移動などに変化する』
 
『先にA or Bボタンが入力されている状態 →左スティックの左右は平行移動から左右旋回(≒右スティックの役割)に変化する』
 
という形になる。
 
この「相互に影響を与え合うボタン操作」によって『ギアーズオブウォー』はシンプルでありつつ様々な状況に対応できる操作性を手に入れている。
 

強く押すか素早く押すか

ここでギアーズの操作方法を改めて確認する。
 
まずAボタンが先に挙げた足回りの操作全般、Bボタンがチェーンソーなどでヒャッハーする為の近接攻撃、Xボタンが地面などに配置されている武器の交換、そしてYボタンが状況に応じてスクリプト演出や目的地に着目するための注目ボタンとなっている。次に左トリガーが覗き込み、右トリガーで射撃、右バンパーでリロード、そして左バンパーで目的状況や仲間を確認するスキャンボタンとなっている。
 

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以上の操作方法を大まかに分類してみると「押し込む『時間が長い』ものは親指」「押し込む『回数が多い』ものは人差し指」で操作するように配置されている事が伺えるだろう。(なお、この部分はギアーズ特有のキーアサインなので、このケースに当てはまらない作品も当然ながら多数存在する)
 
本項目ではこの部分についてもっと踏み込んで分析してみる事にする。
 
最初に、親指での操作周りについてだが、まずAボタンでタックルのような姿勢で走る状態になるのがこちらのローディランと呼ばれる操作方法は移動時間という射撃操作と同じ程度、下手したらそれ以上の時間を占有する操作方法であり右スティックとの競合を避けることが難しいのは明らかだろう。
 
Bボタンを使う格闘周りの操作もギアーズシリーズでは特殊な仕様が採用されている。というのもランサー(注・銃器のこと。ここではチェーンソー付きのアサルトライフルのことを指す)を使った際の挙動はそのままその場ですぐ切り伏せる動作を行うそれではなく、まずはその場で歯を回転させながら構える所謂「待ち受け状態」に移行する操作なのである。そしてこの状態で敵に接近するかされるのと同時に自動的に相手をミンチにするなどして無力化するという流れなのだ。
 

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のちに追加されたレトロランサー(注・=バヨネット付きのランサー)による突撃攻撃はAボタンダッシュをBボタンで発動させるようなもので、こちらもサムボタンに割り当てられた長押し操作のコンセプトから外れないし、スクリプト演出に着目させるYボタン押下も右スティック操作は一時的にその意味を失うものへと変化するものとなっている。
 
次に、人差し指での操作についても纏めてみる。例えばADS(Aim Down Sight : 覗き込みによる射撃用意体勢、この場合は左トリガーによる銃の構えを指す)は本作では移動速度の低下以外にもカバー時の被弾面積上昇というリスクが孕んでいる為、覗き込むかそうでないかの状況判断がダイレクトに伝わりやすい左トリガーへの配置はより重要であることが分かるし、トリガーを引く操作のアフォーダンス的明快さに加えて射撃タイミングやリコイル(反動による照準のブレ)の抑制の為の繊細な操作として射撃が右トリガーに配置されてるのはもはや当然の帰結であるだろう。
 
そしてギアーズ特有のリロードシステムであるアクティブリロードも改めて解説したい。ギアーズのリロードは音ゲーのノーツのようにタイミングよく押下することで通常よりも数舜速いリロードに加えて攻撃力アップのバフも加わる仕様となっている。きわめて強力な利点だが同時にタイミングを逃すとリロード時間の延長というペナルティも課せられている為、合間の呼吸時のミニゲーム的要素で戦闘シーケンスのリズムが緩急付けられているわけだ。こちらも回数が多いため、人差し指による操作としてRBに割り振られている。
 
そしてLBで発動する目標確認画面ならびに仲間の位置や状態を確認するスキャンボタンもまた、細かいタイミングでアクセスできるよう人差し指で押すことが可能な位置に割り当てられているのも納得していただけるだろう。
 
このように「強く押し込む親指」と「素早くたたき込む人差し指」という分類の仕方でギアーズのキーアサインが行われていると推測することが可能なわけだ。
 
(ところで人差し指と親指の間で押下するタイミング把握の確度の高さはどちらに優位性が備わっているかは議論の余地があるように思える。射撃操作はそのアフォーダンス的明快さからトリガー部分に集中しているのは当然の帰結なのだが、近接攻撃主体の作品ではサムボタンとトリガー部分どちらも同じくらいの勢いで使われているので)
 

「無意識」の操作デザイン

以上が今回言いたいことの殆どだ。ゲームパッドFPSやTPSを行う際、指先をどの位置に納めるかといった問題を既存のフォーマットで解決を図った鮮やかな例であることが伺えるだろう。

 

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筆者が最初ギアーズを遊び始めた時(ベルセルク部分で一旦詰んだのは内緒だ)特にそういったことを意識してなかったにもかかわらず、カバーポジションを探すため様々な場所を走り回ることが出来ていた事に改めて気付かされたし。特にシステム側でもそういった旨を説明すること無くスンナリと身につけさせることが出来ていたのは当時の開発者よく思いついたな・・・と舌を巻くばかりだった。

 

今後もこういった「裏側で気づかないうちにユニークな処理を行っている快適にするための操作体系」と言うものが出てくることを願いたい限りだ。

 

余談:この仕様を採用している先行例、現行例

ところで「ボタン押下状態でのスティック操作の変化」を最初に実装したのは何処だろうか?自分が調べた限りこの仕様のルーツは「ゼルダの伝説 時のオカリナ」の「Z注目」がその源流のひとつにあるものだと自分は推測している。
 
というのも通常時は「左右への転回」として機能している3Dスティックの左右入力だが、敵がカメラ内に収まった状態でコントローラー裏面に存在するZボタン押下すると発動するZ注目は「捉えた敵を中心に回転するように移動」する操作方法へ変化するし、何もロックしてない状態でのZ注目発動は左右転回の3Dスティックが「左右への平行移動」へと変化するなど、ギアーズにおけるボタン押下状態によるスティック操作の変化システムはこれに近いものであることが伺えるだろう。
 

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(画像は「~ 風のタクトHD」、手元で使えそうなZ注目系の画像がこれしかなかったの)
 
ゼルダの伝説 時のオカリナ」において「Z注目システム」が開発されたことは3Dフィールド系ゲームにおいてもはや呪縛の域にまで達している訳だが、この「Z注目」は「スティック操作の状態変化」という意味でもやはりとてつもない影響力を感じた。
参考書籍 

Z注目による状態変化の記述アリ。イロハの「イ」を知るためにもまずは押さえておきたい一冊。

 
因みに近年の作品でこの「ボタン押下状態によって左スティックの振る舞いが変化する」という仕様を採用していた特徴的なケースとしては「スプラトゥーン」「同2」の左スティックがそれに該当する。こちらの場合も非常にイカしたものとなっている。
 
スプラトゥーン」において非射撃時及びイカ形態時は基本的な移動操作である「左スティック上下左右」が完全な平行移動にはならないという点は本作を遊んだ人間ならご存じだろう。本作では左スティックの入力操作時は徐々にその傾けた方向に転回する仕様となっており、そしてRZトリガーでの射撃やYボタンでの視点リセットなどの操作は同時に「視点固定ボタン」としても機能しており、これらの押下中のみ完全な平行移動が発動するように作られているのだ。
 
 

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(画像だとかなり伝えにくいので実際に手元のスプラトゥーン2を使って試してみて欲しい)
 
本作の場合Bボタンジャンプ(前作ではXボタンジャンプ)を多用する作品という事もあり、ジャイロ操作による右スティックの機能の肩代わりだけでなく左スティックによる自機移動を行う際にも微細ながら視点移動が行われている調整が採用されており。ギアーズにおけるローディーラン操作に近いコンセプトで操作デザインが行われているようで、こういった意味でも任天堂は既存のシューター作品を深く研究していることが伺える。
 
Gears of War 4 【CEROレーティング「Z」】

Gears of War 4 【CEROレーティング「Z」】

 
Splatoon2 (スプラトゥーン2)|オンラインコード版

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